鹿角の青年

“これが地吹雪ってやつかぁ~ ”
昨日は雪かきの為に早出したのだが、よりによって開店時間に風が強まり、こりゃ今日もお客さん来ないなぁ…と窓の外を眺めつつ諦めていた時、携帯が鳴った。
若い男性の声で県北訛りっぽい。
大阪に住んでいた頃、この方は泉南(岸和田をはじめとする大阪南部地域)の出身では?と、同じ大阪弁でも違いがわかるようになったものだが、Uターンしてしばらくたった今、東北弁でもその違いが聞き取れるようになった。

21時頃ドアが開き、ゴム長靴を履いた青年が現れた。秋田の鹿角(かづの)から来たという。手にはきりたんぽ鍋のセットが提げられ、照れくさそうに「これ土産です」と渡してくれた。
見覚えはあったが、なんでも一昨年に盛岡燈門で開催した三上寛さんのライブに来て以来とのこと。
注文はコーヒー。酒は飲めないらしい。腹が減っているとのことで、冷蔵庫の中のソーセージやら、閉店後に私が食べようと買っておいた巻き寿司やらを出すと、あっと言う間にたいらげた。
かわいい奴だなぁ~と母のような(笑)気持ちで眺めながら「youは何しに盛岡へ?」と尋ねると、なんと私のCDを買いに来たと言うのだ。三上寛さんのライブの後、燈門のことを調べて私がCDを出していることを知ったのだとか。残り数枚となったが、兎に角在庫があって良かった。サインをして渡し、彼の為にアルバムの曲順どおりに演奏することにした。

真っ直ぐな目で私を見ている。“マイクはいつもどっちの手で持ってるんだっけ?”…久しぶりに緊張していることに気付く。しかし、相手が一人だろうが1000人だろうが、演奏する責任、そして使うエネルギーに変わりはない。
青年は時々頷きながら聴いている。1曲1曲拍手をしてくれる。
私は、なんだかどこかへ置き忘れてしまったものを必死で取り戻すような気持ちになっていた。

さて、おしゃべりタイム。口の重い彼が、父がシャンソンが好きでよく聴かされていた話をする。それならと、先日亡くなったなかにし礼さんがシャンソンの訳詞をしていた話をすると「例えばどんな曲ですか?」とすかさず質問され「えーっと…」と携帯を取り出した情けないワタシ。
そして私は鹿角の花輪高校が私が吹奏楽に没頭していた頃、全国にその名を轟かせていたことなどを語り夜は更けた。

彼を見送りに外まで出る。風は止んでいたが、営業中に更に積雪があったらしく、一面銀世界。それでも、鹿角に比べたら盛岡の雪などかわいいものなのだろう。しっかりとした足取りでザクザクと音を立てながら遠ざかる背中を見えなくなるまで見送った。
店をやるということ、演奏するということ…この基本を思い出させてくれた鹿角の青年に感謝しかない。
2021年1月7日 天気 暴風雪。忘れられない一日となった。